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大阪高等裁判所 昭和41年(う)984号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を、原判決別紙犯罪一覧表一ないし六六の事実につき懲役六月および罰金一五万円に、六七ないし二七一の事実につき懲役一年六月および罰金四五万円に処する。

右各罰金を完納することができないときは、いずれも金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

論旨第一点法令違反の主張について。

所論の要旨は、原判決は、被告人を、原判決別紙犯罪一覧表一ないし六六の罪につき懲役一年および罰金二〇万円に、六七ないし二七一の罪につき懲役三年および罰金一〇〇万円に処し、裁判確定の日から五年間右各懲役刑の執行を猶予するとの言い渡しをしたが。刑法四五条後段、同法五〇条を適用して二個の懲役刑に処し右各懲役刑を猶予する場合は、刑法二五条一項の解釈上右各懲役刑の刑期を合算したものが三年以下でなければならないから、右執行猶予の言い渡しは法令の適用を誤つている。自由刑の執行猶予制度は、個々の事件乃至は刑に対するものというよりも、むしろ被告人自身に対するものというところに重点があるものと解されるから、執行猶予の一要件である宣告刑の制限は当該被告人に対し、同一審判手続に審判され、同一公判期日において宣告される刑の制限であると解すべきである。もし宣告刑を合算したものが三年以上となつてもその各個の刑が三年以下であれば、刑法二五条一項によりそれぞれ執行猶予の言い渡しができると解すると、数個の罪が刑法四五条の前段の併合罪として一個の刑が言い渡され、三年を超える刑が言い渡されることが推断される場合でも、たまたま数個の罪の中間に確定犯罪が存するため各別の刑を言い渡すときは、その各個の刑期が三年以下であれば、これを合算したものが三年を超えても、執行猶予の言い渡しができることになり、不合理であるというのである。

よつて、所論にかんがみ記録を精査して検討するに、原判決が、被告人には原判決別紙犯罪一覧表一ないし六六の罪と六七ないし二七一の罪との中間に確定裁判が介在する関係から刑法四五条前段、同条後段、同法五〇条等を適用の上、前者の罪につき懲役一年および罰金二〇万円に、後者の罪につき懲役三年および罰金一〇〇万円に処し、右各懲役刑の執行を何れも五年間猶予したことは所論のとおりである。

しかし、刑法二五条一項の文理からは、所論の数個の罪の中間に確定裁判が介在するため、二個以上の懲役又は禁錮に処すべき場合には、右各刑につき刑の執行猶予の言い渡しをするには、その刑期を合算したものが、三年以下であることを要する趣旨であると解すことはできないのであつて、むしろ同条項には特別の明文がなく、又刑法二五条二項によれば、再度刑の執行を猶予する場合には前の執行猶予の刑と後の執行猶予の刑とを合算して三年を超える場合のあることを法が明定している趣意に照らすときは、三年以下の制限は被告人に言い渡した各主文の刑との関係においてそれぞれ定めるべきものであると解せざるを得ない。このことは審判手続が同時に行われ、刑の言い渡しが同時に行われると否とを問わないものというべきである。もとより刑の執行猶予の判決の言い渡しは被告人自身に対するものであることは所論のとおりであるけれども、それは個々の主文の刑との関係において然るのであつて所論の如く同一被告人に対しては主文と主文との各刑を算術的な合算により(あたかも一個の主文の如く解して)三年以下の枠を適用すべき根拠はついに見当らないのである。従つて、数個の罪の中間に確定裁判が介在するため、二個以上の懲役又は禁錮に処すべき場合において同時言い渡しに際しそのうち一個の刑につき、執行猶予に付し、その他の刑につき実刑を科することもあながち違法でないと解され(昭和二九年三月九日仙台高裁判決、判例集七巻二九〇頁参照)又、刑法二五条一項によつて刑の執行を猶予された罪のいわゆる余罪については両罪が法律上併合罪の関係にさえあれば同時に審判されたならば執行猶予を言い渡すことのできる情状があるかどうかということを問題にすることなく、同法二五条一項により更に刑の執行を猶予し得べく、(昭和三二年二月六日最高裁大法廷判決判例集一一巻二号五〇三頁参照)その場合にも先い言い渡された罪の刑と余罪の刑の刑期を合算したものが三年以下であることを要しないものと解されるのであつて、若しそれ所論の説を採ると、以上の場合はもとより、又刑の下限の重い(例えば)強盗罪数個の罪の中間に確定犯罪が介在するため二個以上の懲役又は禁錮に処すべき場合は、確定裁判が介在しないときは刑の執行猶予の言い渡しが許されるのに反し、確定裁判が介在するときは、その何れにも刑の執行猶予を言い渡すことが許されないという不合理を生ずることとなるのである。所論援用の再度執行猶予に関する福岡高等裁判所の判例は本件には適切でなく、又数個の罪の中間に確定裁判が介在しないとき一個の三年以上の刑の言い渡しが推断される場合には刑の執行猶予の言い渡しができないのに、たまたま数個の罪の中間に確定裁判が介在するため二個以上の刑を言い渡すときは、各個の刑期が三年以下であれば、執行猶予の言い渡しができることになることは不当であるとの所論は量刑論と法律論を混同するものであつてもとより採るを得ない。

してみれば、原判決には所論のような法令適用の誤はなく、論旨は理由がない。

論旨第二点量刑不当の主張について。

本件記録を精査するのに、本件犯行の動機、罪質、態様は、悪質であつて、殊にその回数が約一年間にわたり二七一回の多きに上ることは、その犯行が常習性かつ職業的であることを現わし、その他記録に現われた諸般の事情を考えると、被告人の刑責は軽視することができず、被告人が不具者であること、被告人が贖罪のため金一〇〇万円を頴娃町立保育園に、金五〇万円を大阪府の社会福祉事業に寄附したこと等の事情を考慮しても原判決の量刑は軽きに失するものといわねばならない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決の確定した事実(原判示確定前科を含める、但し、その確定日が昭和三九年一〇月二〇日であることは、検察事務官作成の前科照会に対する回答書により明かである。)と原判示各法条(刑法二五条は除外)を適用して、原判決別紙犯罪一覧表一ないし六六の事実について懲役六月および罰金一五万円に、六七ないし二七一の事実について懲役一年六月および罰金四五万円にそれぞれ処し、右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、主文のとおり判決する。(畠山成伸 柳田俊雄 神保修蔵)

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